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「CS Channel」 オフィシャル・インタビュー

――まずは『CS Channel』というタイトルについて聞かせて下さい。

椎名
最初は思い付きでした。これまでTVプログラム縛りでアルバムを作ってきたので、スポーツもディスカバリー(『大発見』)もあると言えばCS放送かなと。CSの語源はCommunication Satellite(通信衛星)の略だそうですが、「これってCustomer Satisfaction(顧客満足)でもあるのでは?」と思えて。そもそもこのパッケージのリリース自体、お客さんからもとても多くのリクエストをいただいていたものでしたので。

――児玉監督が最初に監督した事変のミュージックビデオ(以下MV)は「OSCA」(『娯楽』収録)でした。そこから今回の映像集まで、カメラで覗いてきた事変メンバーの変化については?

児玉
もともと5人全員のキャラ立ちが強いバンドですから、こちらも毎回「もっと行ける」と勝手に思い込んで様々なトライを強いてしまって。しかもみんな「できちゃう」という。でもそれがフロントマンである椎名さんの見え方を分散させて、5人の集合体のイメージへと繋がると考えていたところもあって……あの、誤解を恐れずに言うと、事変ってSMAP的なんですよ。各々でも活躍出来て、でも集合するとやっぱり華があるという。

――いいですね、事変SMAP論(笑)。

児玉
誰が誰役なのかは言いませんけど(笑)。
椎名
光栄です(笑)。監督はどのビデオでも、男性メンバーの素顔に近くて、それでいてカッコ良く見える表情を引き出すのがお上手で。何でそこまでメンバーのことを理解していらっしゃるのかと不思議なくらい。だって楽屋にいる時と同じような顔を引き出すんですから。伊澤なんて撮られているのを忘れているんじゃないかと思う時もあって。

――実際、男性メンバーは作品を重ねる毎に演技のスキルが上がりましたね。

椎名
特に今回の作品集は4人のスキルが極まり出した時期の作品ですね。1曲目(※「能動的三分間」)からムーンウォークしていますしね。

――ちなみに監督にとって事変メンバーの活かし方が“掴めた"作品とは?

児玉
まだまだ掴めていませんね。東京事変は個々のキャラクターもそうですが、メンバー同士の関係性もまた魅力的なので、つい欲張ってしまうんですよ。そもそも演奏シーンだけでも成立してしまう程のカッコ良さに、余計な演出なんていらないという気すらして、毎回とても悩みます。大抵は未完成のヨレヨレのコンテを不安なまま持ち込んで、皆さんにワーッと説明して、手応えを感じたら、次の打合せにはもうちょっとまとまったコンテを、という……すみません。
椎名
(苦笑)。
児玉
楽曲から膨らむイメージも可能性もいっぱいあるのに、映像を何か一つに絞らなければいけないのは非常に苦しい作業なんですよ。

――コンテにたどり着くまでの椎名-児玉間のやり取りとは?

児玉
いつも完成形の楽曲のみしかいただきません。わりとノーヒントですよね(笑)。
椎名
ほとんど相談もしませんよね。曲が出来て、それを監督にお送りするタイミングは、大抵私自身も制作の佳境やプロモーションで一番忙しい時期で。コンテを待っている間は、自分が書いた曲をどう演出して下さるかという、作家同士ならではの楽しみがあります。だからコンテをいただいた時点で満足しちゃうこともあって。

――椎名林檎は児玉裕一に撮られることについてどう思われていますか?

椎名
それを言い出したら「役不足」という想いばかりがずっと絶えません。監督のいろいろな作品を拝見すると、「あんな才能が、こんな要素が私にあれば」と思うことばかりで、被写体として「すみません」と思うばかりです。
児玉
僕は僕で、たとえば椎名さんに「踊れますか?」と確認もしないのに、コンテ上には「踊る」ことにしてしまっているので。
椎名
そう言えばやり取りはおろか、確認もし合えたこと無いですね。
児玉
「これ、出来ますか?」といった確認が一切無いままに進めてますね(笑)。「出来るでしょ?」くらいの勢いで現場を進めて……すみません。

――何で互いに謝ってるんですか?

椎名
そういう集団なんですよ、児玉組も事変組も。言うこととやることが一致していない。出だしは「すみません」なのにやることは大胆で。だったらお互い最初から謝るなよっていう(笑)。

――奥ゆかしい過激派同士みたいな。

児玉
そうそう。僕も「どうせやるならここまでやっといちゃったほうがよろしいかと」とか「ここは男性が全力で踊る場面かと!」みたいな提案の仕方で(笑)。亀田さんの顔をアメフトの選手の身体に合成した写真をお送りして「ホントによくお似合いになるに違いない」とか。
椎名
ホントに似た者同士ですよね。図々しい同盟(笑)。

――作品がこの充実した完成度である以上、多くのリスナーは椎名-児玉間で相当細かい打合せや密なキャッチボールがあると思っていると思います。でも実際は駆け引きの下に成り立っていたという……。

椎名
あ、それはよく問われます。「椎名からはどの程度注文を出しているのか?」と。この機会にはっきり言いますね。「九割方、監督がお決めになってるんですよ!」
児玉
(爆笑)その通りです。毎回博打を打っている気分で。
椎名
そうなんですか!? 全部確信のもとにおやりになっているのかと。
児玉
いえいえ。でも悩んだら常に楽曲に立ち戻って考えることにしています。MVって音楽体感装置だと僕は思っていて。だから曲とともに感情がどのように揺さぶられながらどんな結末を迎えるのか、その時間の流れを強く意識します。メインのヴィジュアルと同時におおまかな構成が先に浮かんで、ディテールは後から辻褄があっていくという感じです。ビジュアルイメージだけだとうまくいかないですね。
椎名
そこは私の作曲と同じなんだと思います。コードの組み方とか、こちらが発想する部分や計算する箇所が似ている気がする。きっと監督は映像で作曲をなさっているんですね。
児玉
そんなとんでもない……でもそう言われるとアレンジに近いのかな。曲をあらためてなぞって足し引きしているわけですからね。

――撮り下ろしのエンドロール「天国へようこそ Tokyo Bay Ver. CS Edit」では「女の子は誰でも」で見られた椎名さんのゴルフガールが再登場しますね。

児玉
歌詞としても「女の子は誰でも」の続きが天国だとしっくりくると思ったので、どこかで連続性であり関係性を持たせたかったんです。

――そして新曲「ハンサム過ぎて」は、何と監督が作詞を担当されているという。

児玉
クレジット表記を見た時は誤植かと思いました(笑)。
椎名
以前から作品を拝見する度にやっていただきたいと思っていたので。
児玉
椎名さんから楽曲とタイトルを渡されて、「音から映像をイメージして、その映像にドンピシャな歌詞を書いてみて下さい」という無茶振りをされて……最初は全力でお断りしていたんですけど……。
椎名
通常ビデオを作っていただく際は、すでに曲の歌詞は付いている状態なので、ある意味歌詞に縛られるわけですよね。その制約が外れた時に、監督がどんな映像をイメージなさるかも興味深かったのです。より一層好きなようにやっていただけるかなと。

――実際イメージした映像とMVの完成形は同じでしたか?

児玉
そうですね。自分からかけ離れたことは書けないですから、東京事変のアルバムタイトルに込められる「テレビ」の世界というところに自分の仕事との接点を感じて、その表と裏の境目であるテレビスタジオを舞台にしました。ハンサムって外見的なことじゃないですか。映像も一番綺麗な表層だけを捉えるわけです。観る人はその向こう側や奥行きや裏側を知りたがるけれど、実際に撮っている僕らにとっては映っているものだけがすべてという。華やかだけど哀しくて残酷な世界ですよね。

――『スポーツ』、『大発見』という、事変にとって非常に重要な2枚のアルバムに於いて、その楽曲の魅力を児玉裕一という一人の監督が映像にした。これはとても有意義なことでしたね。

椎名
そう思います。嬉しい。本当に有り難いです。

――では事変×児玉ワークス2年分の集大成と言える『CS Channel』、総論をお聞かせ下さい。

児玉
やっぱり“頑張った"しかないですね(笑)。事変のみなさんにも撮影スタッフにもたくさんの苦労をかけました。もちろん僕も毎回ドタバタでしたけど、クールに構えていても完成まで到達しませんからね。
椎名
ほら、やっぱり作曲と同じ。腹を括って、どんどん肉体を動かさないと進まない。腕を組んでいても完成しないし、綺麗事では収まらないわけで。
児玉
ひとつとして同じ楽曲なんてないから、それこそ正攻法なんてないですよね。出し惜しみもしません、というよりできないし。それでいて完成してしまうとあらかた細かい事は忘れちゃうんですよね。パッケージされたものだけがすべてですから。
椎名
死ぬ気で、無我夢中で取り組んだら、感慨も何もない。「ともかくやった」という言葉しか残らない。そういうものですよね。