LINERNOTES & INTERVIEWBack TO LIST

「能動的三分間」ライナーノーツ

バンドにとってのオリジナリティとは何だろう?

 3rdアルバム「娯楽」は、東京事変にとってもリスナーにとってもエポックメイキングな作品だった。バンドの柱であり顔でもある椎名林檎が「本作では曲を書かない」と宣言。伊澤一葉(k)と浮雲(g)がほとんどの詞曲を手掛けたにも関わらず、極めて東京事変的な作品に昇華していた。自由で際どくて鮮烈なのに、高品質なポップ! それは他に聴いたことがない類のものだった。本人たちにとっても手ごたえは大きかったらしく、「このアルバムでバンドとしてやっとスタートラインに立てた気がする」(椎名)と語っていたゆえに、このまま、スタートダッシュを決め込んでいるに違いないと想像していたのだが――。
あれから約2年という決して短くはない月日が流れた。
「当初はすぐに詰めていきたい気持ちもありましたけど、私が“10周年”という自らの音楽活動を振り返らなければならない時期を迎えたこともあって……。期間が空くなら、もっと劇的な成長を聴いてもらいたいなと思ってしまった。初恋のトキメキは終わったし(笑)、次にやるならただじゃすまされないものを目指さなきゃならないな、と。そのためには少しお休みして勉強する時間が必要だなと感じたんです」(椎名林檎)。
 もちろん、椎名が秘めていたそんな思いはバンドのメンバーに語られたわけもなく――。
「僕は何も考えず(笑)個人的な活動をしながら、曲作りしてましたね。東京事変は、それぞれの個性が拮抗するセッションバンドですから、いつ集まっても新しいことが生まれる。確認せずとも、そこの信頼関係はある。時間が空いた分だけ、それぞれの経験を積んで面白みも増すだろうなと信じていました」(伊澤一葉)。
 ゆるやかに流れる時の中、それぞれが自立した音楽家であるメンバーは自らの持ち場で音楽と向き合い、心身の支度ができた09年、4thアルバムを制作すべく再び集まった。
 
 そして、まずはここに届いたのが「能動的三分間」だ。詞曲は、前作では曲を書かなかった椎名林檎が手掛けている。「前作で作家としての自分をミュートしたのは、バンド内の血流が悪くなるのを避けるため。メンバーそれぞれが曲を書いて、その曲に全員が自由に意見を言い合えるような、あらゆる方向から血が流れるような健全な状態にしたかったんです。今はそれが叶ったので、もう、誰が曲を書いてもいいかなと」(椎名)。
 そんな自由な精神のもとに生まれた本作は、つかみどころがないようでいて、緊迫感があり、聴くほどに尾を引くファンキーな中毒性がある。美しい秩序を保ったミドルテンポのリズムに身をゆだねていると、体の奥からむくむくと情動が湧き上がってくるよう。椎名がよく言う、“血の通った音楽”という言葉がしっくりとはまる。
「実はこれ、バンドの練習曲のつもりだったんです。演奏で、今まで出来なかったこと実現させて、次のステップへ行くためのトレーニングみたいな(笑)。こういうテンポで、16ビートがスウィングしてる。しかも機械の打ち込みで走らせるのではなく、生身の肉体でやること……。極めて難しいことだけど、このメンバーだったら、肉感的に、しかも今までなかったノリにできるんじゃないかなと。レコーディングは部活の朝練みたいでした」(椎名)
 ほとんど反射神経で書いたという歌詞は、“メッセージを捨てて肉体を取った”結果だと椎名は言う。たしかに、唐突にカップ麺のことから始まる歌詞は、意味よりも響き、物語よりも刹那な感情に光を当てている。けれど、音が追及して提示している“肉体的、肉感的であること”の快楽と“自らの肉体を使い切ること”の切実な必然性は、言葉の歌唱とも深くリンクしている。
 
 一方、伊澤一葉が作曲を手掛けているカップリングの「我慢」も色は異なれど、極めて“肉体的”な一曲だ。シリアスでドラマティックなメロディを奏でていたと思いきや、弾むようなラテンなピアノをはさんで、突然、明るくポップな展開へと全力で走り出す。そのさまは、何度聴いても、驚きとユーモアにあふれている。クラシックの素養を持ちながら、本能や生理にしたがった純度の高い曲を生みだす、伊澤らしい佳曲だ。
「アルバムのテーマは念頭に置きながらも、後は何も考えずにするっと作れた曲ですね。ただ事変でやるっていうことは、意識しました。全曲そうですけど、5人の個性やスキルが混ざって行くことを前提に曲を書いたかな」(伊澤)
 ちなみに、歌詞は椎名林檎。椎名に関西弁を書いて歌ってもらうことは、伊澤たってのリクエストだったという。
 「深い理由はないけど、林檎ちゃんが関西弁を歌ったら、絶対に可愛いだろうなと思ってお願いしました。やっぱりすごく良かったです(笑)」(伊澤)。
 たしかに、初の関西弁の歌詞と歌唱は、意外なほどハマっていて、何ともチャーミング!楽曲のアバンギャルドだけど人間味あふれる魅力を際立たせている。
「書いてから、歌うまではすごく悩みましたけどね。だって、関西に住んだこともないし。いざワードに打つ時にためらうんですよ。“アカン”って……。私、本当に歌うのかなって(笑)」(椎名)
「東京事変の曲を書く時は、これはできるか?! みたいな気持ちがあるんですよ。林檎ちゃんはコレ歌えるか! 亀田さん、コレはさすがに弾けないだろうみたいな(笑)」(伊澤)

 2曲を聴きこんでいるうちに、“個性はからだにあるんだ”という、かの有名な解剖学者の言葉を思い出した。バンドのオリジナリティとは、5人の才能と肉体が響きあうことから生まれる、“東京事変ならではのグルーヴ”の発見であり、それを追求し続けることにちがいない。
肉体的であること――は、新しいアルバムのキーワードでもある。
「次のテーマはsportsです」(椎名)。
5人の肉体から、どんな新しい音楽が発見されるのか、今から心待ちにしたい。

(芳麗)